The Kamoto Medical Association

「生きている地球とともに(前編)」

                                 山鹿市  前原 龍彦

 青い空に浮かぶ白い雲、すがすがしい朝日、茜色染まる夕日、月の満ち欠けや満天の星空山々は緑に霞み、海はどこまでも蒼く深い。こうした美しい自然は、つい100年も前まではどこにもある風景だったろうと思います。きょうは環境汚染について語ろうというのではありません。こうしたごく当たり前の自然環境というのは、45・億年という気の遠くなるような時間の経過とともに移り変わった姿だったのです.

 日本発のプロジェクトの1つに「全地球史解読プロジェクト」というものがあります。最近の研究成果を駆使して地球と生命の歴史を丹念に辿ることを目的としています。そして驚くべき歴史が浮かび上がってきましたので、いくつかのテーマをあげてご紹介します。今回は地球誕生から人類の誕生するまでの「地球と生命の歴史」の前編です。次回に後編として「生物の繁栄と大量絶滅事件」をお送りします。
まず45・6億年という地球の歴史を辿ってみましょう。

原始地球と月の誕生(45.5億年前)
生命の誕生、大陸地殻の形成の始まり(40億年前)
強い地球磁場の誕生と酸素発生型光合成生物の浅海への進出(27億年前)
超大陸の誕生(19億年前)
全球凍結(10〜8億年前)
海水のマントルへの注入開始、太平洋スーパープルームの誕生と硬骨格生物の出 現(10〜6億年前)

生物の繁栄と大量絶滅事件(後編)

原始地球と月の誕生(45.5億年前)

  前回にも書きましたが、生まれたばかりの原始地球に火星ほどもあるある天体が衝突したと考えられています。月はその大きさからは考えられないほど厚い地殻とあとはマントルだけという構造で、核にあたる部分はほとんどないと考えられています。したがって月の比重は地球と比べてかなり小さいく、逆に地球はほかの金星や火星などと比べて鉄を多く含み、比重も大きいという事実をうまく説明するシナリオとして「ジャイアント・インパクト説」が脚光を浴びているのです。衝突によって生じた膨大なエネルギーは原始地球と衝突天体を、中心部分まで溶解してしまいました。飛び散った断片は、次第に再凝集して現在の地球と月になったのです。月の誕生直後、地球は6時間で自転し月は地球のすぐ近くを高速で周回していました。月は今の500倍もの大きさに見えたはずだといいます。月の存在が地球の自転軸の安定化をもたらしたことは、後の生命の進化には計り知れない恩恵をもたらしました。月がなかったら人類の誕生は考えられないほどです。これから知的生命が存在する可能性のある系外惑星系を探す基準として、月を持つというのが必須の条件となるのではないかと思います。生命の誕生、大陸地殻の形成の始まり(40億年前)

 原始大気が冷えていくうちに水蒸気が地表に雨となって降り注ぎました。分厚い雲に覆われて地表の様子が見えなかった地球は、いつしか晴れ上がり、地表のほとんどが海で占められた文字通りの水の惑星へと生まれ変わりました。ただ大気に酸素はまだなく、ほとんどは二酸化炭素でした。金星ではこの原始の雲が晴れ上がることなく今日に至っています。また地球にある磁場が金星にはないことも大気中の水を失った原因の1つに上げられています。高エネルギーの宇宙線によって水は簡単に分解されて宇宙空間に逃げてしまうからです。地球では強力な磁場が存在することで、私たちは致命的な宇宙線から護られた環境を手に入れることができました。海洋ができると大気中の二酸化炭素は水に溶け込んで急激に減少しました。それに伴い温室効果がなくなり、さらに地球表面は冷却されるようになりました。このころマントルは深さ700kmを境に上部マントルと下部マントルの2層構造となっていました。上部マントルはいくつもの対流で沸きたっていました。この沸き立つ上部マントルの流れが、その上のプレートを動かすプレートテクトニクス原動力と考えられています。原始地球の時代に海があったことは、現在の大陸地殻が花崗岩で出来ていることから分かります。花崗岩はマントルが水の中に出てくるときにしか作られないからです。しかもマントルよりずっと軽いため、太古の時代からの大陸地殻が今なお残っているのです。月や金星には花崗岩はほとんど見つかっていません。誕生直後から今日に至るまで海洋は存在しなかったのです。

 地球の生命の起源については、まだ多くの謎が残されています。地球上の生物種はL体のアミノ酸だけを使っています。しかし自然界にはD体のもあるわけで、なぜL体なのか、その理由はよく分かりませんでした。しかし宇宙を漂う埃や彗星などの天体にはL体のアミノ酸が多く含まれていることが分かってきました。惑星系ができる所では、その原始の雲の中に大量の水とともにさまざまな有機物も生成されます。それが強い紫外線を浴びるとL体よりD体のアミノ酸は破壊されやすく、L体のものが多く残るということが分かってきました。起源を宇宙にもつ有機物にはL体のものが多いということになります。地球誕生以来、大量の彗星や小天体が地球に降り注ぎ、有機物が原始海洋に蓄積されていったと考えられています。豊富に存在するL体の有機物を使って生命が誕生したと考えられるのです。こういうわけで液体状の水が存在する星では生命の誕生はかなり普遍的なことだと考えられます。原始地球が出来た当初は、たくさんの天体が地球に衝突しました。この隕石の嵐の期間は約10億年も続いたと考えられています。その後めっきり少なくなっていた小天体の衝突は、ここ3〜4億年増えてきているという報告もあり、いつ何時、巨大隕石が地球に大きなダメージを与えるか分からないといいます。
 

 現在の海底火山付近ではブラックスモーカーと呼ばれる熱水噴出孔のすぐ近くで、熱水から栄養塩を得て生活する生物が存在します。およそ40億年前、こうした環境で生物が誕生したと推定されています。木星の第2衛星エウロパの厚い氷の下に液体の水が存在するとなると、その熱源である地熱によって必ず熱水噴出があるはず。こうしたことからエウロパには生命の存在が示唆されているのです。近い将来エウロパの探査が予定されていていますので、もし発見されると初の地球外生命となります。地球の中央海嶺付近で見られるような生命が見つかったらと思うとぞくぞくします。あるいは地球の生物とは似ても似つかない生物がいるかもしれません。まさしく同じ太陽系に生まれた兄弟ではないですか。もしかしたら火星には早々に生まれながら、今はない兄弟がいたかもしれない、もしかしたら、、もしかしたら、、と想像が膨らみます。

強い地球磁場の誕生と酸素発生型光合成生物の浅海への進出(27億年前)


 すでに地球中心部の鉄の核は十分に成長していました。徐々に形成されたために密度が安定していて(安定密度成層)、対流は起こっていなかったと考えられています。一方、生まれたプレートは次々とマントルの中に沈みこんでいきます。上下マントルの境界付近に留まっていたプレートは、次々と冷えたプレートが沈み込むにつれ、とうとう一団となって下部マントル層へと雪崩をうったように沈みこみ、ついには鉄の核の表面に達します。今まで対流のなかった液体鉄の核の表面が冷やされることで、温度差による対流がおこります。それは電子の流れを意味します。こうして地球磁場のスイッチが入ったと考えられています(地球ダイナモの発生)。金星には磁場はありません。地球より核が小さいためなのかもしれませんし、金星には地殻が存在しないため、そもそもプレートテクトニクスが働かないこととも関連があるかもしれません。

 地球が磁場に囲まれると今まで降り注いでいたDNAを破壊する高エネルギー粒子が地表に届かなくなりました。生物は海の浅瀬にまで進出できるようになりました。そうすると中には太陽の光を使ってエネルギーを調達する生物が誕生しました。光合成には2種類あり、酸素を発生させないタイプのものと酸素発生型のものです。光合成をする生物の存在はかなり古くから存在したと考えられていていますが、今日、ストロマトライト化石として観察される酸素発生型のシアノバクテリアの誕生までには相当長い年月を要しました(10億年相当)。酸素発生型の光合成を行う生物が隆盛しだすと、海中の酸素濃度が上昇し、それまで還元状態にあった原始海洋に溶け込んでいた鉄が酸化鉄として堆積し始めました。25〜20億年前がそのピークの時期です。このとき堆積した酸化鉄は縞状鉄鋼層として、現在陸地に顔を出して産出されるのが、私たちの生活に欠かせない資源となっています。

 大方の鉄が酸化された後、海洋中の酸素濃度は急速に上昇してきました。しかし活性酸素は生命にとっては猛毒といっても過言ではありません。この活性酸素から自らのDNAを守るための機構(核膜)を備えたものが出てきました(真核細胞の出現)。さらに酸素を積極的に利用する生物が現れますが、その中にミトコンドリヤや葉緑体の祖先がありました。これらは真核細胞との共生という道を取ることで種の存続をはかりました。一方、これらを取り込んだ真核細胞は大型化し、発展を続けました。環境が整い生物が進化しだすと環境に影響を与え、それがさらに生物の進化を促すという相互に影響を与えあう関係が今日にまで続いています。

超大陸の誕生(19億年前)

  プレートが上部マントルへと沈み滞留しつづけると、あるときからいっせいに下部マントルへと崩落していくようです。するとその周りから下部マントルが上昇(ホット・プルーム)してきます。このとき内部の高温のマントルが地表に現れると火成活動が起こります。地球が冷却するに従いこのようなホット・プルームは数が減少するとともに大型化して、ついに19億年前には下部マントルをも巻き込む巨大な単一のスーパー・コールド・プルームが誕生するに至りました。これをマントルオーバーターンといいます。ふだんは上下別々に対流していたマントルが全層対流となるもです。地表の全地殻はこの下降プルームに引き寄せられて集まり、超大陸(ヌーナ超大陸)ができたと考えられています。コールド・プルームができると次にはホット・プルームが湧き上がり、この大陸もやがて分裂し離れていきます。それ以降大陸は分裂と衝突・融合を繰り返し、10億年前(ロディニア超大陸)、5.5億年前(ゴンドワナ超大陸)、そして3億年前にはパンゲア超大陸ができました。現在パンゲアは分裂していてアジアに向かって収束していますから、2億年後には今の東アジアを中心にした超大陸が誕生すると思われます。激しい造山活動によって、そのころ日本は押しつぶされ、大山脈の一部となっていることでしょう。下部マントルの地表への上昇はすさまじい火成活動を伴い環境を激変させます。後編で採りあげますが、パンゲアが分裂し始めた3〜2.5億年前にはペルム紀/三畳紀の大量絶滅事件(P・T境界大量絶滅事件)として知られています。全生物の実に96%が絶滅しました。

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