The Kamoto Medical Association

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 「小泉医療改革は危険だ」

               山鹿市   上 塚 高 弘

<301号掲載> 
小泉首相の人気はすごい。閉塞状態だった世の中を何か変えてくれそうだという期待だろう。しかし、その首相が議長をつとめる経済財政諮問会議の打ち出した構造改革案は、少なくとも医療に関しては危険だ。

 同会議では老人医療費に上限を設けて総枠予算制にし、老人医療費は人数の増加による医療費の伸び以外は認めず、それ以上になった場合は医療機関の負担とするとしている。

 毎年の医療費は診療報酬のアップがなくても、医療の進歩を取り入れることで自然に2〜3%は増えるから、その分が医療機関の負担になる。診療をすればするほど損をする仕組みだ。
確かに医療費を総枠予算制にしているところはある。ドイツでは各地の医師会が"疾病金庫"と交渉して総枠予算を決める。フランスでは公立病院が総枠予算制だ。しかし、両国とも国民医療費の対国民所得比はわが国よりかなり高く、やむを得ない策だったのだろう。その結果ドイツでは、年度末には予算が使い果たされて診療しても支払いがないから医師は旅行に出かけ、診療空白が出来ているし、フランスでは同じく年度末には公的病院の診療拒否が起こっている。

 この様な外国の例を見ながら医療費制限をしなければならないほど、わが国の医療費は国庫財政を圧迫しているのだろうか。

 もともとわが国の医療を含めた社会保障への国庫予算は先進国では飛びぬけて低いし、高齢社会になって当然予算を増やさなければならないときも抑制を続けたから、最近20年間で社会保障費に占める国庫予算の割合は10%も減ってしまった。診療報酬も当然抑制されて、81年からの15年間に物価は24.4%、賃金は50.3%上がったのに、診療報酬は7.7%しか上がっていない。それに引き換え、公共事業費には莫大な予算がつぎ込まれている。

 これほど医療費の抑制を受けながら、日本では皆保険制度と医療機関の頑張りで、いつでも、どこでも、安い費用で、質のいい医療を受けることが出来た。これはWHOでも高く評価されている。

 つまり、日本では医療費は国家財政を圧迫するどころか、医療従事者の献身の下に、少ない予算で良い医療を提供してきたのである。しかし、もう限界である.国保料が払えず医療を受けられない者がでるなど、皆保険が崩壊し始めているし、社会保障の将来に不安を感じた国民は万一に備えて貯蓄をし、現在の消費に回そうとしない。これがますます景気を冷やし、税収を減らし、国家財政を苦しくする悪循環を招いている。

 小泉改革でまずやるべきことは、医療費の抑制でなく、医療を含めた社会保障予算を大幅に増額し、国民の将来不安を除くことである。

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